戦後から続く長屋が、海外カフェ調になって蘇った! 民泊「和氣会々 都立家政 」
戦後間もない頃から立つ、今では珍しい長屋の建物。都立家政で長年営まれてきたブティックが、民泊施設に生まれ変わりました!
これまでは主にシェアハウスの事例を紹介してきましたが、今回は初めて、民泊物件を取り上げます。
所有物件の築年数や広さやに不安がある方も、ぜひ参考にしてみてください!
依頼の流れ・現地調査
元はバングラディシュと日本の交流を目的として、アパレル事業やイベント、募金活動を行っていたブティック。
弊社は土地のみをお貸している状態で、契約更新の際に事業継続の相談を受けたことをきっかけに、見積もりをお出しし、建物も買い取らせていただくこととなりました。
一般的には依頼を受け、現地調査やお話を聞きに伺い、1週間ほどで改めて結果や見積もりをお伝えする流れとなっています。
古民家再生ですので、できる限り建物を残すかたちでご提案をさせていただきますが、基礎が弱くなっていたり、柱が曲がっていたり、再生が難しい建物の場合は、更地にすることを視野に入れた提案もさせていただいております。
......さて、今回の物件。詳細な築年数は不明ですが、おそらく80年程度と想定しています。
隣と壁を共有し連なっている長屋の造りをはじめ、築年数ゆえのゆがみや傾き等もあり古い印象は受けましたが、日々様々な物件を見せていただいている中では古さは平均的で、全体的には物も少なくきれいな状態だと感じました。
とはいえ、随所に築年数ゆえの影響は出ています。
雨漏り
今回の一番の懸案事項は、2階部分の雨漏りでした。
雨漏りは必ずしも屋根だけの問題ではなく、古くなった塗装が剥がれたり、ひび割れしたところからも雨水が伝ってくるので、出所を突き止めるのが難しいのです。
また、雨漏りをしていた下の床は腐って凹んでいました。
木製サッシ
鍵が閉まらなくなってしまったり、すきま風が入ってくるようになったり、建物のゆがみの影響を受けやすい木製サッシ。
歴史や趣を感じられる古民家ならではの良さであり、可能な限り残したいと考えていますが、今回は2階部分だけアルミサッシに交換することとなりました。
弊社の古民家再生では、可能な限り古材を活かします。古材の目利きは難しく、経験を積んだ職人でも根を詰める作業ですが、長い年月をかけて出てくる味や趣、そしてオーナー様が大切に使ってきた証や歴史のバトンをつなぎたいという思いから、残せるものは残していきたい。
今回、1階部分は残すことができたので、そちらについては後ほどまた触れていきます!
壁の変色
所有、または相続した物件のその先の転用を考えるけれど 「古いから売れないんじゃないか…」「そんなにきれいじゃないんだけど…」と不安を抱えているオーナー様は多くいらっしゃいます。
壁の変色も古さを感じさせるポイントですが、弊社で手掛けさせていただいた物件のほとんどでこうした変色は見られます。木製サッシも同様です。オーナー様が不安に思われている点は、意外と私たちにとっては当たり前、気にしない部分だったりもするので、まずは相談をしてみてくださいね。
そして、この建物の特色として忘れてはならないのは、長屋という造りです。
長屋は隣家と屋根が一体になっており、仮に更地にする、もしくは建て替えようにも隣の建物と屋根がくっついているので、どちらか一方の都合で着工することができません。そのため、その時期の見極めや交渉など、専門業者でないと対応が難しい建物でもあります。
雨漏りが2ケ所あったものの、幸い今回の長屋は取り壊すことなく使える状態でしたので、古民家”再生”を一番に考える弊社にとっては一安心でした。
プランニング
弊社の古民家再生では、現在シェアハウスと民泊利用でのリノベーションが考えられますが、今回は建物の形状や広さ、またリノベーションを施しても築年数ゆえのゆがみや傾きが残ってしまうこともあり、住宅よりは宿泊等の短期的な利用が望ましいということで、民泊としての利用を検討しました。
利用目的の決定は、このように建物の大きさや形状、状態から判断する場合もありますが、「用途地域」というルールに則っても判断しています。「用途地域」とは、建築可能な建物の種類や用途がエリアによって制限されるというルールで、どの地域でもシェアハウスや民泊を営めるわけではないのです。
今回の物件は無事に民泊業が営める立地であり、更には駅から1分というアクセス、そして民泊では懸念される騒音問題が、近隣が飲食店なのでクリアできる点も民泊の条件としては魅力でした。
工事過程
まずは、新たな間取りを検討し、床や壁を取り払います。
1F
1階は店舗だったため、床は外と同じ高さのワンフロア構造。間取りでは「土間」と書かれている所です。そして旧玄関のある2階につながるフロアが1段上がっている作りでしたが、その段差がかなりの大きさだったこともあり、全体の床を上げて移動しやすい高さに調節し、新たに玄関スペースも作りました。
また、透明のガラス張りだった入り口のドアは、プライベートな時間を人目を気にせず楽しめるよう、中から外。は見えるけれど外からは見えないフィルムを張りました。これは弊社としても初の取り組みでした。
今回はお店のような空間づくりでバーカウンターを目指していたので、キッチンも移動しています。
2階に続くフロアの段差もわかっていただけるかと思います。
ゆがみの影響をそこまで受けていなかったので、補強をして残すことができた1階の木製サッシ。海外テイストの室内とも調和するとともに、やっぱり趣があってかわいいです。
水回りは、店舗入り口の反対側にある玄関を塞ぎ、シャワールームを新設してまとめました。
2F
2階は和室3部屋から2ベッドルームに。
民泊利用率の高い外国人観光客の方は特に、大人数のご家族や複数グループで旅行に来る場合が多いので、みんなで一緒に過ごすことができる宿泊空間を意識して間取りを変更しました。
外観
外にある看板テントは、雨漏りの工事の関係で外さない方が良いという判断のため、再塗装をしデザインの変更を行いました。今では大事な民泊の目印です!
コンセプト・こだわり
部屋が出来上がると、コンセプトや細かな世界観を考えます。
民泊は多くの場合、余っている部屋や普段使っていない別荘を貸し出すかたちで、新たに作るということは稀かと思います。だからこそ私たちは、建物や立地に合わせて一からこだわった空間づくりをして、古民家の価値を再度高めたいと考えています。
今回は、1階が店舗、2階が住宅という本来の造りを生かして、1階ワンフロアを広々とダイニングキッチンにし、ファミリー層というよりは、仲間内でワイワイできる大人の秘密空間を意識。ブルックリンのバーをイメージした内装に仕上げています。2階の宿泊空間も1階の雰囲気をそのままに、大人な落ち着いたデザインを心掛けました。
バーカウンターキッチン
海外カフェバー、ブルックリン、大人な空間…そういったキーワードから出てきた、無機質で無骨、かつ機能性に優れたインダストリアルなインテリア。
そのメインとなるのが、宿泊者が貸し切りで使えるバーカウンターキッチンで、今回は厨房キッチンと融合させた職人さんの手作りです!キッチンに合わせて木を組み、水回りなので防水塗装を施し、コンセントもつけて使いやすい仕様に。色やサイズが限定されるシステムキッチンと予算も変わらず、完全オリジナルのバーカウンターキッチンが完成しました。
そして壁には、打ちっぱなしのコンクリートを意識した漆喰をチョイス。通常は壁紙を張って完成となるところ、漆喰は下地も入れて4回塗り!デザイン担当自らが丹精込めて仕上げています。
2階につながる一段上がったところからは壁紙になっており、同じ白色でも印象が変わるように工夫しています。
ベッドルーム
1階のバーの雰囲気を引き継ぎながらも、リラックスできる空間としてウォルナットの木目と黒のタイルで落ち着いたデザインに仕上げました。アクセントとして、一面だけ柄壁にしているのもポイントです。
”気心の知れた仲間たちが集まって、お酒を飲みながら語り合えるプライベート空間を作る”
今回はそんなコンセプトを掲げていたので、「和氣会々 都立家政」にはあえてテレビを設置しませんでした。ここでの時間を通して、よりお互いを知り、仲が深まるようなお手伝いができたら嬉しいと考えています。
ココミンカの活動
古民家再生事業を広く知っていただくため、ココミンカでは一般の方や不動産オーナー様に向けて、DIY体験や内覧会、懇親会などのイベントを開催しています。
というのも、私たちが現場に入るとほぼ毎回のように、近隣の皆様から「何の工事をしているの?」との質問をいただくのですが、そこには”長年抱えてきた不安や悩みの種”といったネガティブな印象が込められていることが多いように感じます。
たしかに、放置された空き家による日照遮断、虫の発生、悪臭被害といったトラブルは年々増加しているのです。
本来は、伝統や古き良きものを残し、再生する可能性を秘めた空き家。ネガティブな面ばかりが先行してしまうのは、その実態がクリアになっていないからだと我々は感じています。
なので、実際に空き家にお招きして、再生の一部を見て・体験していただき、変わっていく様子を自分事として感じてもらう。そうすることで、未知で不安の種だった空き家に、興味や価値を見出していただけるのではないか。私たちが行うさまざまなイベントやDIY体験会にはそんな意味があります。
実際に一部始終を見ていただいた皆様からは「すごく綺麗になったわね」「リノベーションするとこんなに素敵になるのね」と温かなお言葉をいただいています。
古民家再生は、ただ建物を綺麗にするだけで終わりではありません。再び地域に迎え入れていただく関係性づくり、そして利用者に安心して過ごしてもらえる環境・空間づくり。ココミンカではそこまでが「古民家再生」だと定義しています。
民泊「和氣会々 都立家政」
◆ 民泊「和氣会々 都立家政」
◆ 西武新宿線「都立家政駅」徒歩1分
◆ 2023年12月15日OPEN